未練

 

 

 

 

 

この世の未練として、一番は祖父だった。

わたしが自殺したら一番に悲しんで、一番に悔しくて一番に生きていく気力を無くしてしまいそうだった。

そんな祖父が亡くなった。事故みたいなあっけない死に方だった。死に目には会えなかった。痛いつらい思いをしていないといいなと願う。

 

 

花が好きな祖父だった。

だからよく花を贈った。祖父が見たことない花だ、とてもきれいだと喜ぶ姿が嬉しかった。

亡くなった今でも花を仏壇に贈っている。祖父が好きな薔薇も、祖父がまだ見たことなかった花も贈っている。棺桶の寂しいけど綺麗な花じゃなくて、わたしが選んだ珍しい花を贈っている。

 

 

そんな未練がない今、けれどわたしはしあわせで、死にたいなんて頻繁に思う暇がないくらいしあわせで、ああ、それを祖父に伝えておけばよかった。ウェディング姿もひ孫も見せてあげられない孫だったけど、出来る限り愛を愛で返してきたつもりだ。

 

きらきら輝く無敵の魔法をあびていた幼少期のわたしを大事にしてくれた数少ない人。

死にたいのに無理して笑って死にたくなんかないみたいな顔をしていたけど、本当の本当は死にたくてたまらなかった。どんな時も。

でも死ねなかったのは、勇気がなかったのもあるし、一番悲しむ祖父のことを思ってだった。

そんな祖父がいないのに、わたしはもう死にたいと頻繁には思わないなんて、なんて皮肉だ。悲しい皮肉だ。

 

 

 

けどふと、しあわせに疑問を感じるときもある。

いつまでもふしあわせに浸ってきたわたしだから、しあわせなんてお似合いじゃなくて、それはそれは惨めだ。